
S&P500の平均リターンは年11.11%。
しかし投資家の平均はわずか3.69%。
この差を生む「行動ギャップ」とは何か。
新NISA時代に求められる“他人と比べない投資”の考え方を、データと心理から解説。
月10万円投資しても報われない?“行動ギャップ”が生む投資成果の差
もくじ
- 月10万円投資しても報われない?“行動ギャップ”が生む投資成果の差
- 5.暴落に耐えた人だけが「平均リターン」を得られる
- 6.他人と比べない投資マインド ― 投資額よりも「続け方」
- 7.これからの時代に必要な3つの視点
- まとめ:投資で勝つのは「耐えられる人」
はじめに
S&P500の平均リターンは年率11.11%。しかし、その指数に連動する投資信託を保有していた投資家の平均リターンはわずか3.69%――。
この差を生むのが「行動ギャップ(Behavior Gap)」と呼ばれる現象だ。いくら理論上のリターンが高くても、実際にそれを享受できるかどうかは「投資家の行動次第」である。
新NISAの開始で投資ブームが再燃する中、「どれだけ投資するか」ではなく「どう投資を続けるか」が問われている。
1.投資ブームの波 ― 「月10万円投資」が“当たり前”の時代に
2024年に始まった新NISA制度をきっかけに、「貯蓄から投資へ」の流れが急加速している。日本経済新聞が日経ID保有者1,934人を対象に行ったアンケートでは、円預金以外に投資している人が72%に達した。
特に注目すべきは「毎月の新規投資額」だ。調査によると、20代~40代の投資家の中心層は月10万〜20万円を投資している。

📊 図1:毎月の新規投資額は10万~20万円が中心(出典:日本経済新聞)
20代では「1万~10万円未満」が約7割を占めるが、逆に言えば3割が月10万円以上を投資している。30代~40代ではその割合がさらに上がり、半数以上が月10万円以上を投資している。
この数字は、もはや「投資が一部の富裕層だけの行為ではない」ことを示している。共働き世帯や副業収入を得る層を中心に、投資を生活の一部として捉える動きが広がっているのだ。
2.20~40代の投資額が急増 ― 新NISAと株高の追い風
この投資熱をさらに裏付けるデータがある。以下のグラフは、年代別に「3年前と比べて投資額を増やした人」の割合を示したものだ。

📊 図2:20〜40代の過半が3年前より新規投資額を増やした(出典:日本経済新聞)
20代〜40代の約半数が、3年前よりも投資額を増やしたと回答。そのうち**「投資額を2倍以上に増やした」層が半数を超える**。
背景には、・2024年の新NISA制度拡大による非課税枠の拡充・株価上昇による投資意欲の高まり・SNSやYouTubeでの投資情報拡散が挙げられる。
一方で、この「攻めの姿勢」がリスクにもなりうる。株価上昇局面では強気になりやすいが、相場が反転したときに心理的ショックで投資をやめてしまう投資家も少なくない。
3.「行動ギャップ」とは何か ― データが示す残酷な現実
投資の世界で最も重要なのは、「どんな金融商品を選ぶか」ではなく「その商品をどのように持ち続けるか」である。
以下のグラフは、1984〜2013年の30年間におけるS&P500指数と、それに連動する投資信託の保有者の平均リターンを比較したものだ。
📊 図3:S&P500と投資家平均リターンの差(行動ギャップ)
S&P500の平均リターンは年率**11.11%だったが、実際にS&P500連動投信を保有していた投資家の平均リターンは3.69%**にとどまった。
この約7.4ポイントの差が「行動ギャップ」だ。原因はシンプル――投資家が**「安いときに買えず」「高いときに売る」**からである。
4.なぜ人は「高く買って安く売る」のか
投資の鉄則は「安く買って高く売る」。しかし、現実の投資家はしばしば逆の行動をとる。
これは人間の心理的バイアスによるものだ。
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損失回避性:人は利益よりも損失を2倍強く感じる。下落局面で「これ以上損したくない」と思い、早々に売却してしまう。
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群集心理:周囲が投資を始めると「自分もやらなきゃ」と思い、相場の天井付近で参入しやすい。
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短期的快楽追求:リターンをすぐ求め、長期視点を忘れる。
結果として、上昇相場では買いが集中し、下落相場では売りが集中する。この“逆張り”行動こそが、長期的な投資成果を大きく損ねる要因になっている。
5.暴落に耐えた人だけが「平均リターン」を得られる
S&P500の平均リターン11%は、“理論上”の数字だ。そのリターンを得るためには、リーマンショック、コロナショック、ITバブル崩壊など、幾度もの暴落を乗り越える必要があった。
例えば、・2008年のリーマンショックでは株価が半年で50%下落・2020年のコロナ初期には、わずか1ヶ月で30%近く下落
こうした局面で「売らずに持ち続けた」人だけが、最終的に平均リターンに近い成果を得られたのだ。
一方で、暴落時に解約してしまった人は、株価が回復した後に再参入できず、リターンを大きく逃す。この積み重ねが「行動ギャップ」の根本原因である。
6.他人と比べない投資マインド ― 投資額よりも「続け方」
日経アンケートの結果を見て、「自分は毎月これだけしか投資できていない」「他の人は10万円も投資しているのに、自分はまだ…」と焦る人もいるだろう。
だが、投資の本質は「金額」ではなく「継続性」にある。
仮に月1万円でも、20年間コツコツ積み立てた人は、暴落にも慣れ、投資を“生活習慣化”できている。一方で、月30万円を一時的に投資しても、相場が崩れた瞬間に撤退してしまえば、意味がない。
金融庁の調査によると、長期・積立・分散を続けた個人投資家の多くはプラスのリターンを得ている。リターンを決めるのは「相場」ではなく、「行動の一貫性」なのだ。
7.これからの時代に必要な3つの視点
投資が一般化する今こそ、次の3点を意識したい。
① 「暴落前提」でポートフォリオを組む
暴落は“例外”ではなく“定期イベント”だ。株式の割合を見直し、生活防衛資金を確保しておけば、暴落時も冷静に行動できる。
② 「平均点を取る」ことを目指す
個別株で勝とうとするよりも、インデックス投資で市場平均を得る方が確実。市場の平均=S&P500の11%に近づけることが現実的な目標だ。
③ 「他人と比べない」
投資額も成果も人それぞれ。重要なのは「自分のリスク許容度と目標」に合っているか。SNSや周囲の数字に惑わされず、長期目線を持ち続けよう。

まとめ:投資で勝つのは「耐えられる人」
新NISAで投資人口が増えることは喜ばしい。
しかし、「投資を始める人」が増えても、「投資を続けられる人」は限られている。
S&P500のような市場平均を上回ることは難しい。
だが、平均に近いリターンを得ることは誰にでもできる。
必要なのは、“暴落を耐え抜く力”と“続ける習慣”だ。
他人の投資額に一喜一憂するのではなく、
自分のペースで、長期的に続ける。
そのシンプルな姿勢こそが、最終的に最も大きなリターンを生む。
📌まとめポイント
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20〜40代の半数以上が、3年前より投資額を増やしている
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月10〜20万円の投資が主流だが、「行動ギャップ」に注意
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S&P500の平均リターン11%に対し、投資家平均は3.69%
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「暴落時に売らない」ことが最も重要
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投資で勝つのは、才能ある人ではなく「続けられる人」
🗂 参考資料
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