
フランス政治の混乱と財政赤字で国債格付けがA+に引き下げられ、日本もシングルA格。財政不安が招くリスクと、インフレに強い資産形成の備え方をわかりやすく解説します。
〜【日本も関係アリ】フランスが財政不安で「国債格下げ」へ。何が起きている?〜
もくじ
- 〜【日本も関係アリ】フランスが財政不安で「国債格下げ」へ。何が起きている?〜
はじめに
フランスの政治と財政の混乱が、かつてない形で国際金融市場に波紋を広げています。2025年9月、格付会社フィッチはフランス国債の信用格付けをAA−からA+(シングルAプラス)へ引き下げました。これはユーロ圏第2の経済大国にとって過去最低の格付けで、債務の安定化の展望が見えないことが理由です 。日本でも国債の格付けはシングルAに留まっており、財政赤字や政治不安に対するリスクが無関係ではありません。本記事では、初心者でも読みやすいようにフランス危機の背景をひも解き、日本や個人投資家にとっての教訓を考えます。

1. フランス政治不安で国債格付けが引き下げられた
まずは今回のニュースを整理しましょう。フィッチによる格付け引き下げのポイントは以下の通りです。
・格付けの引き下げ理由は政治と財政の不安定さ。
フィッチは、政党間の対立が激しいため「今後数年間の債務安定化の展望が明確でない」と指摘しました 。
・信用格付けはA+で安定的な見通し。
格付けを1段階下げたうえで、今後の格付け動向を「安定的」としましたが、既に投資家の不安が高まっています 。
・最悪期の政治危機。
同記事は「過去最低の格付け」と伝え、分断した議会で予算案が通らないことが問題だと強調しています 。
このような格下げは、単なる金融ニュースに留まりません。フランスの政治が機能不全に陥り、財政赤字が膨らむなかで「債務の返済能力が疑われる局面」に入ったことを意味します。格付けが下がれば借入コストが上昇し、財政再建はさらに難しくなるでしょう。次章では、フランスで何が起きているのかを詳しく見ていきます。
2. フランスでは何が起きている?政治と財政の混乱
2-1. 議会が政府を倒し、わずか2年で5人目の首相
2025年9月8日、フランス国民議会はベイル首相に対する信任投票を行い、反対364票、賛成194票で首相を退陣に追い込みました 。この結果、マクロン大統領はわずか2年足らずで5人目となる新たな首相を探す事態となり、政治的不安定が極まっています 。
その背景として、与野党の対立と財政赤字への対応策を巡る議論があります。ベイル氏は約9カ月前に就任したばかりでしたが、2026年予算案で44億ユーロ(約7千億円)規模の歳出削減を盛り込んだところ、与野党から広く反発を受けました 。議会は財政赤字を削減する必要性を認めながらも、歳出削減や増税への支持は得られず、政府は予算案を成立させることができなかったのです。
2-2. 財政赤字と公的債務の膨張
フランスの財政赤字はEU基準(対GDP比3%)のほぼ2倍(5.8%) に達しており、政府債務残高は**GDP比114%**に上っています 。ベイル首相は「支出は増え続け、すでに耐え難い債務の負担がさらに重くなる」と議会で訴えましたが 、反対派は増税や社会保障削減に抵抗して政府を倒しました。政治の混乱と財政赤字の膨張が同時進行しているため、投資家はフランス国債の信用リスクを強く意識しています。
2-3. 格下げがもたらす市場への影響
フィッチは声明で「政治的な不安定さが財政再建に必要な政策の実行能力を弱めている」と指摘し 、この格下げが他の格付け会社の追随を招く可能性も示唆しました 。格付けが複数機関で下げられると、一定水準の格付けを投資条件としている投資家がフランス国債を売却しなければならなくなるため、国債価格が急落する恐れがあります。
フランスは国内政治が混乱しやすい国として知られており、1960年代以降だけでも数回の政変や財政危機を経験しています。今回の格下げも、単なる一時的な政治騒動ではなく構造的な問題が表面化した結果と言えるでしょう。

3. 格付けが下がるとどうなる?金利上昇と経済への悪影響
国が借金するときの利子(国債利回り)は、投資家が抱く信用リスクによって決まります。格付けが下がると、投資家はリスクに見合うリターンを求めるため、金利は上昇します。ウィキペディアの「ソブリン・デフォルト」では、政府が債務不履行に陥る懸念が高まると投資家は高い利子を要求し、それが**「ソブリン債務危機」**と呼ばれる状況につながると説明しています 。
**「ソブリン債務危機(sovereign debt crisis)」とは、国が発行する国債(ソブリン債)の返済が困難になる状態を指します。つまり「国家の借金返済が危機的状況に陥ること」です。**
国債の利回り上昇は、政府の利払い費を増加させ財政をさらに圧迫します。借入コストが上がると、公共事業や社会保障に充てる予算が削られ、景気にマイナスの影響が出やすくなります。フランスのように対GDP比100%を超える公的債務を抱える国では、金利のわずかな上昇でも財政に大きな打撃となるため、格付け引き下げは市場の不安材料となるのです。
4. 国の破産ステップ:債務危機からデフォルトへ
国が財政破綻に至る流れは、一般的に次のステップをたどります。
1. 国債価格が下がり続ける(利回りが急上昇)
投資家が返済リスクを意識すると、国債を売って逃げようとするため、債券価格は下落します。ウィキペディアは、債務不履行の懸念が高まると「投資家は高金利を要求するようになり、金利急騰によるソブリン債務危機が起きる」と解説しています 。
2. 通貨安とインフレが進む
政府が債務負担を軽くするために通貨を切り下げたり大量の紙幣を発行すると、通貨価値が下落しインフレが進みます。ウィキペディアには「政府は自国通貨を切り下げることがあり、これは紙幣の増刷や金・外貨との交換比率を変更することで行われる」と書かれています 。
3. 借金の膨張が止まらなくなる
通貨安によって輸入物価が上昇し、財政赤字や貿易赤字がさらに拡大します。投資家はリスクを嫌って資金を引き揚げるため、国債発行で資金を調達することが困難になります。
4. 政府が限界を迎え破産(デフォルト)する
借金返済が不可能になると、政府は一部または全部の債務の支払いを停止します。ウィキペディアは、国家がデフォルトすると国際的な信用を失い、新たな借入が難しくなると説明しています 。
このような危機は歴史上何度も起こっており、アルゼンチンやロシア、ギリシャなどが近年実際に国債の支払いを停止しました。フランスや日本のような先進国も、政治・財政状況次第では例外ではないことを意識する必要があります。

5. 日本もシングルA:なぜ他人事ではないのか
5-1. フィッチによる日本国債の評価
2025年7月、フィッチのアナリストは「日本の財政政策が信用格付けに対する主要なリスクである」と述べました。記事によると、フィッチは日本の長期信用格付けをA(シングルA)で安定的としており、これは最上位のAAAから5段階低い評価です 。日本の債務残高は**GDPの約250%**に達し、先進国で最も高い水準にあることも指摘されています 。
また、消費税減税など景気刺激策への圧力が高まっており、それが実施されると「財政赤字の拡大と債務残高の悪化につながり、格付けへの圧力となり得る」とフィッチのアナリストは警告しています 。つまり、日本も政治動向や財政政策によっては格下げされるリスクがあるのです。
5-2. 長期金利上昇に伴う損失リスク
日本の金利が上昇すれば、国債価格は下落します。これは理論的な関係であり、米国の投資情報サイト「Investopedia」は、インバース(ベア)型債券ETFについて「金利上昇に伴う債券価格の下落から利益を得るための金融商品である」と説明しています 。一方で、これらのベア型商品は短期取引向きで、長期保有には適さないこと、価格変動リスクや流動性リスクが高いことも強調されています 。日本債券ベアファンド(5倍型)もこのカテゴリーに属し、金利急騰時のヘッジには有効ですが、投資経験の浅い人には難しい商品です。
5-3. なぜ私たちも備えるべきか
フランスの例が示すように、政治的不安定と財政赤字の拡大は国債格付けを揺るがし、金利上昇や通貨安へとつながります。日本でも、政権交代や選挙結果次第で財政運営が大きく変わる可能性があり、格下げや金利急騰が起こらないとは言い切れません。自国通貨建て資産ばかりを保有していると、もし円の価値が大きく下落した場合、資産価値の目減りに直面します。そこで次章では、通貨安や国債の暴落に備えるための資産形成術を考えます。
6. 通貨の価格が下がり続けるとき、どうすればよいか
6-1. インフレに強い資産を持つ
インフレや通貨安に備える基本は、物価上昇に負けない資産を持つことです。代表的なのは株式や不動産、コモディティ(商品)など。株式については、米国投資会社ハートフォード・ファンズのレポートが興味深い分析を示しています。同レポートでは、「インフレ率が低く上昇している局面では株式がインフレを上回るリターンを得ることが90%の確率で確認された」一方、インフレ率が高く上昇している局面では株式の実質リターンはコイントス程度の確率に落ちると報告しています 。つまり、株式は万能のインフレヘッジではないものの、長期的には企業の売上や利益が価格上昇とともに伸びるため、一定の防衛力を持っています。
6-2. S&P500や全世界株式インデックスで「まさか」に備える
フランスの危機はユーロ圏内部の問題ですが、世界には多くの国が存在し、経済環境も多様です。国内だけに資産を集中させず、米国株式指数であるS&P 500や**全世界株式(オール・カントリー)**など、複数の国や地域に分散投資することで、特定の国の財政問題や通貨下落に対するリスクヘッジができます。フォーブスの記事では、ドル高局面を利用して海外資産に分散することを勧め、「自国資産が割高になっているときは海外投資への配分を増やすべきだ」と述べています。国内通貨が下落した場合でも、外貨建ての資産が値上がりして損失を補う可能性が高いからです。
具体的には、S&P500指数連動型の投資信託やETF、全世界株式インデックスファンドを毎月積み立てる方法が手軽です。これらのファンドは数千社の企業に投資するため、フランスや日本が財政危機に陥っても他の国や業種の成長がリスクを吸収してくれます。もちろん株価の変動リスクはありますが、長期的な資産形成においては有効な手段です。
6-3. 変わり種としてのベアファンド利用
インフレが急激に進んだり、金利が急上昇する場合には、先ほど紹介したベア型(逆連動型)債券ファンドの活用も考えられます。Investopediaによると、インバース債券ETFは「金利上昇時に債券価格が下落することで利益を得る商品」であり 、一部の商品はレバレッジを掛けることで1日の値動きを複数倍に増幅します 。日本債券ベアファンド(5倍型)は、長期国債先物の値動きに対して約5倍逆方向の投資成果を目指す商品で、金利が急激に上がる局面では短期ヘッジとして機能します。ただし、日次で複利効果が働くため長期保有すると予想外の値動きになるリスクがあり、投資初心者が安易に手を出すべき商品ではありません。使う際は、メインの資産形成とは別枠で、短期的な金利上昇リスクを部分的にヘッジする目的に限定しましょう。

7. まとめ:盤石な資産形成で「まさか」に備える
フランスの政治不安と財政赤字は、国家の信用力を大きく低下させ、国債の格付けが史上最低水準まで引き下げられる事態を招きました 。議会で度重なる首相交代や予算案の否決が続くなか、財政再建の見通しは立たず、投資家は金利上昇リスクを強く意識しています。日本でも、フィッチが長期信用格付けをシングルAと評価し、財政政策の方向性が格付けを左右するとの警告を発しています 。
このような時代において個人投資家がすべきことは、「メインシナリオでもまさかのシナリオでも資産形成が進む」仕組みを持つことです。具体的には、
- ※インフレに強い資産(株式・不動産・コモディティなど)への長期分散投資を行い、国内通貨の下落リスクを抑える。
- S&P500や全世界株式インデックスなどグローバルな株式市場へ投資して、特定国家の財政危機に備える。
※、これは短期的かつ少額にとどめる 。
最後に強調したいのは、本記事は**「日本やフランスがすぐに破産する」と煽るものではなく、**冷静にリスクを理解し長期的な資産形成を続けることの重要性**を伝えるものだということです。歴史的に見れば、100年の間に大きな経済危機が起こらない方が珍しいという現実があります。今後もどこかで財政危機や通貨の急落が起こる可能性を念頭に置きつつ、堅実な資産形成を続けていきましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
この記事が少しでも参考になれば幸いです✨